3月21日午前11時、高木さんからの電話で目を覚ました。
「…昨日言ってた大阪の大会なんだけど、池田と、団体で出てみないかっていう
話をしてたんだけど…」
「え?本気ですか?」
確かに昨日のOB会の2次会で冗談半分で高3の3人に
「大阪行くしかないでしょー」とかなんとか言った記憶はあるが。
「それで、池田は気合十分なんだけど、あと永井と、お前と、もう一人必要
なんだけど…」
出れるのなら出たい。高3の三人は将棋部の中でも特にお世話になった人達だし、
最後に団体で組めたらすごく面白そう。
「大丈夫でしょ。ヤバ連れて行きましょう。ヤバの実家関西だし」
関西でも京都だから大会とは関係ないんだけど。
で、高木さんが永井さんとヤバに電話したけど、2人とも反応はイマイチとか。
そこで僕がまずはヤバに電話。
「永井さんも来ることになったし、ヤバも行ってみない?」…大嘘。
「あ、なんだ永井さん行くの?高木さんはそうは言ってなかったけど?」
「昨日の時点での話じゃない?昨日もなんかそんな事言ってたし。」…嘘。
「そっか。永井さん来るのか、じゃあもう一回考えてみるから、明日の朝
また電話する。」
ニヤリ。次は永井さん。「メンツ揃いました!」…嘘。
「後は永井さんだけです!」…こんなこと言っていいのかな。まあいいや。
これが功を奏したのかどうか、結局、高3の3人とダブル山内の5人で大阪に行く
ことになった。申し込んだのは締切ギリギリの24日だった。
――メンツが揃った直後の1コマ
高木「優勝するしかない」
――大会3日前の麻布将棋部HP掲示板の1コマ
永井「大阪の大会はマジで優勝ねらいます。」
――大会前日の麻布将棋部HP掲示板の1コマ
山内「優勝しちゃる。」
しかし……
――大会前の1コマ
山内「麻布、大阪の団体出ることになったんですよー」
某学生強豪連「(笑)なにしに行くの?」
そりゃそうか。ヤバは強くなってるとはいえ大学強豪級をなぎ倒すのは難しい
だろうし、高3は受験でかなりのブランクがある。…記念出場みたいなもんか。
でも慶応だって優勝してるし(*)、奇跡でも起こらんかな。
こうして大会は始まった。
*:去年(’99)の大学の王座戦で、個々のメンバーの総力的に立命館大学が
圧倒的に評価が高かったにも関わらず慶応大学が優勝したことを指す。
用語解説:ヤバ=山内祥敬、ペンギン=山内一馬、ダ銀=ダーイケ銀冠=池田流銀冠
気持ちよくスタートを切りたい所。久々の団体戦ということもあり、オーダーは
迷った末、上から高木、山内(祥)、池田、永井、山内(一)、と自分を5将に
したが、これが意外と不評だった。このオーダーを発表した瞬間、
「これで負けたら(オーダーを組んだ)ペンギンのせいだ」という声も聞こえた。
僕としては無名の高校相手に負けるはずが無いという感じだったし、高木さんや
永井さんは優勝の言葉を口にしていた位だったが、実はみんながそれほど自信なく、
結構緊張していることにようやく気付いた。
そんな中1回戦は始まった。
第1図は永井さんの将棋。例によって振り穴。相手の作戦はやや変な感じ。
第1図からの指し手
▲7五歩△同角▲9七角△3七歩▲同銀△5七角成▲同飛△4五桂▲7七飛△3七桂成
▲同金
で永井さんやや良しか。以下もたつくも勝ち。相手の△5七角成が暴発。単に
△4五桂の方がいいだろう。「△7三桂を跳ばれる前に仕掛けたかった」という
感想だが、第1図で▲4六銀とすれば8四角と7三桂の両方が一遍にボケるのでは?
まあいいや。
第2図は池田さんの将棋。永井さん曰く「ダ銀の金をはがされ竜も侵入され苦しそう」。
第2図以下の指し手
▲6三歩△同金▲同馬△7三金▲同馬△同銀▲7二金△8二金▲6三銀
と、麻布らしく喰いついて勝ち。でも普通は▲8四歩ですよね、池田さん。
第3図は高木さんの将棋。簡単に飛を成らせるのがらしいが、以下しっかり勝つのは流石。
他もみんな勝ち5―0の完勝で少しいいムードができてきた。
今度は僕を大将にして、永井さんの「5将がいい」という要望も聞き入れて、上から
山内(一)、高木、山内(祥)、池田、永井とした。ここまでは対戦相手がぬるそうな
ところなので内心ほっとしていた。
第4図は僕の将棋。相手の玉が堅くしばらく粘らないといけない局面。
第4図以下の指し手
△1七角▲4四歩△6一香▲8四歩△7三飛
△1七角は▲4四歩で意味がないように見えるかもしれないが、将来4四歩を取って
馬をつくる展開になるとみて敢えて打っておいた。△7三飛以下も粘り通し、最後は入玉。
残りも全部勝ってまたも5―0。しかしまだ開始直前の自信なさげな雰囲気が完全に
吹き飛んだわけではなかった。これで昼休み。僕は強豪校の人達に「麻布強いですよー」
と吹聴しまくった。次にでも強豪校と当たったときに少しでもプレッシャーを与えるためだ。
もう強豪校と当たってもおかしくない3回戦。しかし高木さんのオニの引きで神戸大学を
ツモる。しかし、僕は後で知ったのだが、ここはハイパーデンジャラスな内容だったらしい。
オーダーは上から山内(一)、山内(祥)、池田さん、高木さん、永井さん、だ。
池田さんを3将に持ってきたのは来たるべき4回戦〜に備えて自信をつけてもらうため。
案の定オーダーを組んだ瞬間は「僕が3将?」と不安げだったが、勝ってくれると勝手に
信じていた。
まずは池田さんが圧勝(第5図)。だが、ヤバが横歩取り8五飛で負け、これで1―1。
池田さん曰く「永井はなんとかなりそうだが、高木はボロボロ。まあペンギンは大丈夫
だろうと思ったら時間が切れそうでマジでヤバい。負けたと思った。」
僕の中盤は第6図。
第6図以下の指し手
▲6四歩△同歩▲5八金左△7八角▲4八金上△4五角成▲4七金左
でまずまずと思っていた。しかし…。
そのころの高木さんの将棋は第7図。かなり悪い上持ち時間は高木さん9分、相手23分。
内容も時間もダメな高木さんの典型的負けパターン。ここから相手の飛車をいじめにいくが
(必敗形を逆転させる手筋の一つ)、失敗してますますダメになったらしい。
……そっからどうやって勝ったんだろ?ありえんありえんありえん。
高木師曰く「いろいろしてる内に…」何したの?「時間が逆転して…」え?は?
14分差ですよね…「後はこっちのもの。ニヤリ。」うーむ、流石すぎる。
一方僕は、最終盤、残り時間2分対2分で、(これは相手を寄せながら相手に考えさせて、
最後は切らし勝ちだな)とか思っていたら、相手への寄せが全く見えなくなりみるみる
自分の時間が減りとうとう第8図で残り30秒を切ってしまった!!!相手を詰ますには
まだまだ時間がかかる、ていうかこっちの攻めはつながってるのかどうかも怪しい。
(やっべーー!!!)と思いつつ秒速5手の必殺黄金の右腕(??)を使い、盤上の
散らかった駒を直すよりも先に時計のボタンを押し「失礼失礼」とか言いながら相手の
時間で乱れた駒を直すなど、裏技全開(他の裏技は秘密)でなんとか攻めをつなげ、
相手の玉を詰ましきった。大会でこういうことをした(する羽目になった)のは久しぶりだ。
という訳で、永井さんも勝ち運良く4―1となった。必敗形を逆転させたり、持ち時間が
少ない時のテクニックなど、麻布の特徴がよくでた闘いであったと思う。
これで(内容はともかく)3連勝。この時点で3連勝校は麻布、明治、東大A、京大、
立命館Bの5校に絞られていた。超強豪校ばかりだ。しかし奇数のため1校だけ2―1校と当たる。
→当然それを高木さんが引き(太い)喜んでいたが、当たった2―1校は明治と潰しあった
立命館Aで、浮かれ気分は一瞬で吹っ飛んだ。
会場の熱気もかなりのものになってきた。そしてとうとう強豪校を引いてしまった。
勝つしかない!オーダーを組む時に「は〜いみんな集合〜」って言ったらみんな素直に
集まってくれてなんか嬉しかった。で、高木さんの収集した情報からオーダーは池田さん、
山内(一)、山内(祥)、永井さん、高木さん、とした。そしたら…
麻布 | 立命館A | |||
---|---|---|---|---|
大将 | 池田 | ×−○ | 青木雄一郎 | (全日本選抜選手権出場など) |
副将 | 山内一 | ○−× | 鰐渕啓史 | (中学生2冠、学生準王将、高校3冠など) |
3将 | 山内祥 | ○−× | 臼井崇 | (よくわからず) |
4将 | 永井 | ×−○ | 熊野剛 | (高校竜王戦3位2回など) |
5将 | 高木 | ○−× | 金築克祐 | (高校準竜王など) |
となった。当たりはやや予定が狂った感じ。僕の相手、鰐渕さんとは初手合い。力戦得意の
振り飛車党と聞いていたので、全然勝つ自信が持てなかった。だが、「俺が勝たないといけない」
と自分に言い聞かせ、それと同時にチームメイトを信じることにした。団体戦は1対1の
勝負と違い、自分が勝ってもチームが負ければそこでおしまいだ。そんな条件の中、
自分の実力をどれだけ発揮できるかは、どれだけチームメイトを信じられるか、に
懸かっていると思う。
…さっそく池田さんが圧敗(第9図以下)。さすがは立命館。しかしこの負けが
次の京大戦で活きるのをその時は知る由もなかった。
僕はなんとか鰐渕さん相手に優勢を築き、第10図。
第10図以下の指し手
▲7七桂
これが好手。▲2三角成は△2五桂で相手の7四歩の形がけっこう堅く大変。すぐ
▲7四角とするのも△7三銀▲8三角成△同金▲同飛成の後、相手が意外としっかり
している。一手力をため、つぎの▲7四角〜▲8三角成を狙えばよし。△7三銀と受ければ
今度こそ▲2三角成で、将来の▲6五桂が楽しみ。以下は相手の時間も絡めてリードを拡げ、
1勝をもぎ取った。
第11図はヤバの将棋。相穴熊からガラの悪い殴り合いになっているので、ヤバが勝つと
思った。麻布の将棋はガラの悪さにかけては天下一品である。ヤバと池田さんの将棋は
僕の両隣だったので見ていたが、あとの2人は僕の対局が終わってからも僕は見に行かず、
会場を出て頭を冷やしていた。
第12図は高木さんの将棋の序盤。
第12図以下の指し手
△6六歩(??)▲同角
で全然OUT。数日後本人に「△6六歩ってなんなんですか?」と問い詰めた所、
「とりあえずこうするだろ。」と言われて呆然。その場に居合わせた後輩の小林知直君も
「こうする所ですよ」とか言い出し、これが幾多の必敗形をひっくり返した人達の
感覚なのか、と意味無く感心した。
→しかし(当然ながら)この後必敗形に陥るのだった。
第13図は永井さんの将棋の中盤。
第13図以下の指し手
▲7五歩△同歩(ノータイム)▲7四歩△同銀(長考)▲5五角△同歩▲2六飛△4三角
▲2二飛成△3三角▲2六竜
にて永井さん優勢。強豪の熊野さん相手にはっきり優勢な局面をつくるのは強い。
この後も優勢をずっと維持していたようだが…
僕が会場内に戻って来ると、永井さんの所と高木さんの所に人だかりができていた。
近付いていくと、ビシバシすごい音がしている。人山を押しのけて現場を見たら、そこでは
壮絶な叩き合い(*4)が繰り広げられていた。形勢は、永井さんは局面は圧倒的優勢で、
時間も永井さんが2分で相手が1分ちょい(時間も形勢の内)で明らかに永井さん優勢。
高木さんのところは局面はよく見えなかったが、どうせ必敗形なんだろうから、問題は
時間だ。高木さんが4分位、相手が1分ちょい。どれほどの必敗形かによるな…と思って
いたら、ここで異変が起きる。永井さんが倍以上あったはずの時間で追い越されてしまったのだ。
もともと永井さんは切れ負けがさほど得意でなく、永井さんが一手に数秒かかるのに対し
熊野氏はほとんど0秒でしかも駒を盤面に叩き付けるようにしてすごい駒音をたてて指している。
これを見て僕は真っ青になった。…以下いくばくもなく永井さんの時計が切れる、
と同時に永井さんは奇声を発して盤に突っ伏した。熊野氏はガッツポーズ。
僕もギャラリーも即座に高木さんの将棋に目を移す。盤上では2人の手が物凄いスピードで
交錯していた。相手の時間はもう残り少ない。後は形勢だ…。こういう時の高木さんは
本当に強い。0秒でも相手が最も嫌がる手を指せる。時計を連打しまくり、渾身の気合を
込めて駒を盤上に叩きつける。そしてあっという間に自玉の周りに金銀を埋めまくり
相手を不快にさせる(笑)。
ついに高木さんの玉は詰まされることなく相手の時計が切れた。
麻布高校が立命館Aに勝った瞬間である。
永井さんはしばらくの間自分が負けたことをしきりに悔しがっていた。そういう姿が
チームをまとめていくのだと思う。団体戦は(1対1)×5、ではなく5対5であることに
価値がある。個人々々の強さで言えば麻布は立命館にはとても及ばないだろう。しかし、
5対5だからこそ、5人のまとまり具合によって、勝つ可能性が生まれてくる。
4回戦終了時で、4―0チームは立命館B,京大、麻布。東大Aと明治はそれぞれ京大、
立命館Bに負けた。その強さをよく知っている明治や麻布OBが3人もいる東大Aが
消えてくれたのは好都合だ。初めての相手の方が一発入れ易い。高木さんがくじを引き、
京大と当たることになった。そろそろ麻布チーム内でも「優勝か?」という話が出始めた。
例によって「は〜い集合〜」の声とともに集まり、作戦会議。ヒソヒソ。というわけで
オーダーは池田さん、山内(祥)、山内(一)、高木さん、永井さん。
麻布 | 京大 | |||
---|---|---|---|---|
大将 | 池田 | ○−× | 青木保繁 | |
副将 | 山内祥 | ○−× | 竹内俊弘 | (アマ名人戦3位、朝日アマ名人戦4位など) |
3将 | 山内一 | ○−× | 松尾哲也 | (西日本オール学生選手権優勝など) |
4将 | 高木 | ×−○ | 田中朗夫 | |
5将 | 永井 | ×−○ | 水口哲也 |
最初に池田さんがさくっと勝ってくれる(第14図)。4回戦と同じく居飛穴対
四間飛車高美濃4四銀型で、その時の感想戦で立命の人にいろいろ教えてもらったらしく、圧勝。
次にヤバの将棋(第15図)。相手はアマ名人戦3位の実績もある強豪だが…
第15図以下の指し手
△4五歩▲同桂△同桂▲同歩△5五歩▲4六角△4二飛▲4四桂△8五歩▲同歩△同桂
▲8六銀右△8四歩▲5五歩
にて第16図。
第15図はやや振り飛車作戦勝ちと思うが、善後策として4七金型にしているあたりに強さを
感じる。小競り合いの末第16図となる。
第16図以下の指し手
△8六角▲同銀△3八銀▲5六金△2九銀不成▲5四歩△6四桂▲6五金△4九飛
▲3七角打
素晴らしい手順。この手順については後で立命館のひとも「強い」と言っていた。この後も
綺麗に決めた。これでなんと早くも2―0。
僕は4回戦と同じく期せずして相手チームの主将と当たってしまったが、僕には秘密兵器が
あった。ユンケル黄帝液だ。ただのユンケルではない。なんと、麻布OBで東大Bチーム
として出場している鈴木豚光氏が、対立命館戦に備え少ない小遣いで買ったものの、
東大Bチームが立命館と当たる前に不本意にも負けてしまい優勝の目を摘み取られて
しまったので麻布チームに託してくれたものだ。これを麻布のチームメイトに僕が勧めると
…永井「怨念がこもってそうだからいらない。」
…高木「飲むと気持ち悪くなりそうだからいい」
…池田「え〜ブタの?ん〜いいや。」
…ヤバ「え?オレいらない。」
という訳で僕が飲むことになった。豚さん、大変感謝してます。また、同じく麻布OBで
東大Bチームの上原Qさんも「ここまできたら優勝してしまえィ」と激励してくださった。
Qちゃんありがとう。
そして第17図。△7八金から8八の角を取られ、今金を取ったところ。
第17図以下の指し手
△7七歩成▲同桂△7二飛▲7八歩△7九角▲8九飛△5七角成▲4八銀△5六馬
▲6三角△7一飛▲5九飛△7八馬▲5七飛
にて第18図。
以下も難しい戦いが続いたが、途中で時間が僕16分相手8分位になったのでモードチェンジ
して時間を切らして勝った。こういう切り替えも麻布の中で身についた技術。
これでいきなり3タテ。まあ後の2人は負けたので3―2のギリギリ勝ちといえば
そうなのだが、状況としてはややあっけなかった。しかしここにも我がチームメイトの
心遣いが隠れていたのである。以下は永井さんの自戦記からの抜粋。
…(致命的な見落としをしてしまい)「その段階で持ち時間は永井−24分、相手−12分ぐらい
だったが、士気を下げないために長考しまくった。そして永井−0分、相手−4分で
切れ負けた時、(高木はもう負けていた)5将の位置から見えない残り3局の結果を聞き
マジで彼らに感謝したのだった。」…あなたの気配りに感謝。
ここで、5回戦が終わり基本的には大会プログラムは終了である。しかし、麻布、
立命館Bがチームとして5―0で並んでいるだけでなく、その勝数も20で並んでいる為、
決勝戦が行われることになった。んで、係員に持ち時間について聞いた。
「あのー、決勝の持ち時間は何分なんですか?」
「20分切れ負けの予定やけど。」
(チッ)しかしノータイムで次の台詞が口をついて出た。
「(時計を見ながら)もう時間もだいぶ遅いですよね。おなか空いちゃったし
早く帰りたいんでもう少し持ち時間短くなりませんか?」
「ああええよ。もう7時やし。15分でやろか。」
……yes!
こうして小細工を完了し「は〜い集合〜」の声をかける。またまた高木さんの情報収集に
より相手の予想オーダーは金堂氏、根来氏、武田氏、本田氏、佐伯氏。強豪のかたまりだ。
まず最初に高木さんとヤバをそれぞれ副将、4将に配置。残りの3人はあみだで決めることにした。
…テッテケテッテク…厳正なあみだの結果オーダーが決定。
ここで僕の提案。「円陣組みましょう!」
永井「それは体育会系っぽくて嫌だから手をあわせるやつにしよう。」
池田「で、なんて言うの?だいたい恥ずかしいんだけど。」
高木「たしかに。」
山内一「優勝するぞー、とか。」
ヤバ「それで優勝できなかったら恥ずかしいんだけど。優勝してからやればいいじゃん。」
山内一「優勝するぞー、の後みんなはなんていうの?」
永井「う〜ん。」
ヤバ「別にやんなくてもいいじゃん」
山内一「それもある。」
…となってみんながそのまま歩きだそうとした瞬間、ヤバと共にいきなり永井さんに
後ろから首を抱え込まれ、永井さんは叫んだ。
「優勝するぞおおお!」
みんな「おー!」
;みんな実はやりたかったんだろ。
麻布 | 立命館B | |||
---|---|---|---|---|
大将 | 山内一 | ○−× | 武田俊平 | (東日本学生大会優勝、アマ竜王5位など) |
副将 | 高木 | ○−× | 根来正浩 | (関西学生個人戦3位,高校選手権4位タイなど) |
3将 | 池田 | ×−○ | 金堂晃久 | (高校竜王など) |
4将 | 山内祥 | ○−× | 本田篤志 | (よく知らず) |
5将 | 永井 | ×−○ | 佐伯紘一 | (学生王将など) |
第19図は池田−金堂戦。ここから池田さんは圧勝ペースに。進んで第20図。
第20図以下の指し手
▲4四桂△6七歩成(ここで相手玉が詰みそうで池田さんは長考してしまい持ち時間切迫。
▲5二銀△同飛▲同桂成△同玉▲8二飛△6二金▲3四角△4三金▲4四桂△6三玉
▲4五角△5四金
にて第21図。21図以下負け。残念。
しかしヤバはしっかり勝ち。お疲れ様でした。
第22図は僕の将棋。武田氏とは会う度に真剣を指しており、この局面は最近2人の間での
指定局面。ここから毎回武田氏は千日手を狙ってくる。真剣ではいつも僕から手を
変えていっており、それはそれで難しい形勢なのだが、ここで僕は敢えて千日手にし、
先手番を捨てた。今まで千日手を狙ってきた相手に対し先手番をつきつけ、
「今度千日手模様になったらあんたが打開しいや」という暗黙のメッセージを送った訳だ。
勿論「千日手は先手番を放棄するのがセオリー」なんてことは全くない。ただ、その場の
雰囲気などからこの場合は、相手が、今までの2人の真剣の内容から「(自分は千日手を
誘ってはいるけど)絶対千日手にはならない」と確信していることを読み、その上で
その確信を突き崩すのが最善と判断した、だけの話である。実際、指し直し局は2人の間では
最も千日手になりにくい戦型である相振りを、相手が安易に選択し僕の圧勝となった。
また、感想戦が終わった後武田氏と立命の人との会話の中の一言、武田「相手、先手なのに
千日手にしてきやがったんだよー(怒)。」からも、千日手にしたのが(普通は喜ばれる
はずなのに)相手の動揺を誘ったことを裏付けていると言えるだろう。蛇足だが、
この心理戦において僕が一番嫌だったのは、もう一回相穴熊から千日手模様にされる
ことだった。その状況では僕が後手番なので本来は僕が千日手を避けるはずがないのだが、
千日手にした後「また千日手模様になったらどうしよう」というプレッシャーが僕に
のしかかったはずだ。最初に僕が相手にそのプレッシャーを突きつけたように。
これで2―1。永井さんは負けてしまいそうだが高木さんはなぜか将棋の内容で
勝ちそうになっている。こういう時の高木さんはおとなしい。一手一手慎重に読み進めて
いき、相手玉を着実に追いつめていく。
…一つだけ高木さんの玉にトン死筋がある(第23図、部分図)。
…高木さんの時間が短くなってきた。焦らずにしっかり読めるかどうか…
高木さんが相手に必死をかけた。…相手が王手ラッシュを仕掛けてきた。
…▲9一金。
(取らないで!)
(△9三玉△9三玉△9三玉△9三玉△9三玉△9三玉△9三玉△9三玉△9三玉………………)
秒速1万メートル位で祈っていたが、どうやら杞憂だったようだ。高木さんは0.1秒考えて
△9三玉と指した。相手は投げきれずしばらくの間無意味な王手を続けていたが、
それも途切れた。
相手「負けました。」 !!!
優勝!!!
おしまい。
ついでに麻布のメンバー紹介、と麻布将棋部の紹介。
高木 啓……切れ負けの鬼。相手の時間が少なくなったと見るや駒をぐしゃぐしゃに散らかし
時計を連打する(反則では?)。その姿勢には学生強豪もただただ
「麻布は恐い。」と呆然とするばかりである。当然得意戦法は振り穴。
永井 敏樹…チームの精神的支柱。何となくこの人がいるとチームがまとまる。これは
団体戦において非常に重要な要素だと思う。
また、過去のオール学生系の大会において結構金星を挙げていたりする。
池田 陽一…詰将棋作家。居飛車党。よくある。しかし対振り穴における「ダ銀」
は振り穴党だらけの麻布内において飛躍的な進歩を遂げ凄まじく強力な戦法
として完成されている。京大戦でさくっと勝ってくれたのは心強かった。
山内 祥敬…ヤバい。その独特な手つき、雰囲気から発せられる手は数多の強豪に苦杯を
なめさせた。最近また一段と強くなりこれからも期待できる存在。今回は
山内(一)の嘘まじりの説得によって参加を決意したが、まさか優勝する
とは思っていなさすぎてきっとヤバくびっくりしたのだろう。
山内 一馬…切れ負け真剣なら負けることはまずない。この代に切れ負けを流行らせた
張本人。本人は「普通に指しても強い」と主張するが、それが認められた
ことはいまだ無い。当然振り穴しかやらない。「裏芸は相振り」とここでも
本人は主張するがそれもいまだかつて認められたことは無い。
全体として、穴熊戦の筋の悪い攻防に長けている。また、山内2人と高木さんは
切れ負け戦が本当に強い。また池田さんと永井さんも指し手のスピードは遅いものの
切れ負け戦特有の様々なテクニックを身につけている。
勿論他の部員も切れ負けに関しては相当強い。麻布内で指される将棋は2分や3分の
切れ負けが主流であり、たくさんの技術が日々開発されているが、その内容は部外秘とされている。
一部は蒲田将棋クラブのちびっこ達の間に流出しているとの噂もある。また、必敗形を
逆転させたり、必敗形になっても普通に手が見えるアビリティを身につけた者も何人か
存在するらしい。これについては筆者もまだ、切れ負け戦の効果であるらしい、という
ところまでしか分析できていない。
最近は全体的に普通の将棋のレベルも向上しており、中堅クラスは奨励会の5、6級とも
いい勝負になってきているようである。
特筆すべきこととしては、バックギャモンのレベルがやたら高いことが挙げられる。
部内にはバックギャモン学生チャンピオンもいる。学校単位で団体戦をやれば日本一は確実だろう。